膝の痛みでお悩みの方へ

膝の痛みで受診される方は非常に多く、特に膝の内側を痛めるケースがよく見られます。これは日本人にはO脚の方が多く、膝の内側に負荷がかかりやすいためです。

変形性膝関節症とは?
O脚によって膝の内側(X脚であれば外側)に負担がかかり続けると、半月板や軟骨などのクッションが損傷し、痛みを感じるようになります。痛みは一時的に軽減することもありますが、時間とともに悪化する傾向があります。

 

レントゲンで異常なしと言われたが痛い?
中高年の方(特に女性)で、突然膝の痛みや膝裏の痛みが出た場合、実は半月板が損傷している可能性があります(Guermazi A, Radiology 2013)。その中でも特に多いのが半月板後根断裂です。
半月板は膝の中でクッションの役割を果たしますが、根元が断裂すると半月板が外に押し出され、膝関節内にクッションがなくなります。その結果、軟骨が直接擦り減り、変形性膝関節症が進行しやすくなります(Goto N et al., KSSTA 2018)。
さらに、レントゲンでは関節外に骨棘形成が見られることがあり、これも関節症の進行と関連があります(Hada S et al., Arthritis Res Ther 2017)。
後根断裂は保存療法(手術なし)では改善しないと言われており、根本的な治療が必要です(Kwah YH et al., KSSTA 2018)。


どのような治療法があるのか?
内側楔状開大式近位脛骨骨切り術(open wedge high tibial osteotomy; OWHTO)とは?
半月板や軟骨を修復するだけでは不十分な場合、O脚を根本的に治すことが重要です。そのために行う手術が内側楔状開大式近位脛骨骨切り術(OWHTO)です。
この手術では、脛骨(スネの骨)を部分的に切って開き、脚の軸を変えることで、痛みのある内側ではなく外側に体重をかけるようにします。

(図はオリンパステルモバイオマテリアル株式会社ホームページより)

 OWHTOのメリット:
• 65歳以下の方も適応可能
一般的に人工関節手術は65歳以上が対象ですが、骨切り術は若年の方でも可能で、また65歳以上でも良好な成績が得られています(Goshima K et al., KSSTA 2015)。
• スポーツ復帰が可能
スポーツをしていた患者さんの82%が術後6か月以内にスポーツ復帰し、術前1年以内にスポーツをしていた人ほど復帰しやすかった(Hoorntje A et al., AJSM 2019)。また、50歳以上でもスポーツ復帰ができることが報告されています(Nakamura R et al., AP-SMART 2020)。さらに、Jリーガーを含むプロ選手がOWHTOを受け、術後9年以上プレーを続けた例もあります。当院では両膝の術後1年4ヶ月で那覇マラソンに完走された60台男性を経験しています。しかしスポーツ復帰のためにはリハビリとトレーニングが当然必要となります。
• 仕事復帰も可能
仕事内容や個人差はありますが、3〜5か月程度で仕事復帰が可能と報告されています(Hoorntje A et al., Sports Med 2017)。
• 関節温存ができる
人工関節置換術では膝の靭帯や軟骨をすべて取り除きますが、OWHTOではご自身の関節を温存できます。このため、近年は「関節温存術」とも呼ばれています。
• 半月板や軟骨の修復と併用可能
変形性膝関節症の患者さんの多くは半月板損傷を伴っており、骨切り術と同時に半月板縫合を行うことで、より良い成績が得られる可能性があります。また、軟骨損傷部にドリリング(血流促進)を行うことで、回復を促すこともできます。

• 左:白く見えるのが軟骨、ピンク色に見えるのが軟骨の損傷部
   → 右:ドリリング(軟骨下に骨で穴を明け血流改善を促します)

• 左:骨切り術(こちらはハイブリッドという術式でOWHTOとは異なります)も一緒に行いました
   → 右:ドリリングした部位の表面が線維軟骨に覆われています

《入院期間・術後の流れ》
入院期間は3〜6週間程度で、退院後は外来で定期的にレントゲン検査やリハビリを行います。
膝の状態や生活スタイルは人それぞれ異なりますので、一人ひとりに適した治療法を相談しながら決めていきます。診察ではレントゲンやMRIを撮影し、膝の痛みの原因を詳しく調べます。
膝の痛みでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
__________________________________________________________________
参考文献
1. Guermazi A, et al. Prevalence of abnormalities in knees detected by MRI in asymptomatic adults. Radiology. 2013. 268(2): 245-255.
2. Goto N, et al. Association between medial meniscus posterior root tear and spontaneous osteonecrosis of the knee. KSSTA. 2018.
3. Hada S, et al. Association of bone marrow lesions and osteophytes with knee pain in Japanese women. Arthritis Res Ther. 2017.
4. Kwah YH, et al. Non-surgical management of meniscal root tears: A systematic review. KSSTA. 2018.
5. Goshima K, et al. Clinical and radiological outcomes of opening-wedge high tibial osteotomy. KSSTA. 2015.
6. Hoorntje A, et al. High rates of return to sport after osteotomy around the knee. AJSM. 2019.
7. Nakamura R, et al. Return to sports after high tibial osteotomy in patients aged over 50 years. AP-SMART. 2020.
8. Hoorntje A, et al. Time to return to work and sports after knee osteotomy. Sports Med. 2017.

 

➤専門外来(膝関節):島川先生の紹介